副腎疾患
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原発性アルドステロン症
(1)病気の解説
現在、日本人の4000万人が高血圧症だと言われています。高血圧症には、特に原因がはっきりしない本態性高血圧症(多くの方はこれ)と腎臓やホルモンの異常など原因がはっきりしている二次性高血圧症があります。血圧の調節にとても大切な働きをするホルモンの1つとして副腎皮質から分泌されるアルドステロンがあります。正常な人では、アルドステロンが腎臓に働いて体に丁度良いように塩分や水分をためる働きをしています。このアルドステロンが、上手に調節されずに増えて高血圧症になった病気を原発性アルドステロン症と言います。副腎は、左右の腎臓の上にあります。アルドステロンが増える原因として、片方の副腎にできた小さな腫瘍(ほとんどが良性)がアルドステロンをたくさん分泌するものと、腫瘍ではなく両方の副腎からたくさんアルドステロンを分泌するものに大別されます。この原発性アルドステロン症は、高血圧症患者の20人中1人の割合でいると言われ、従来の見解と異なり、比較的多い病気です。ただ、正確に診断されていない方が多いと考えられています。
(2)症状
高血圧以外に特徴的な症状は少ないのですが、比較的若い年代から重症の高血圧になっている方が多いです。血液中のカリウムが低下する時があり、脱力を感じたりすることがあります。一般に、高血圧の程度が強く、合併症として若くても脳血管障害、心不全や腎臓の障害(腎不全)などの確率が高い病気です。
(3)診断のしかた
高血圧症とくに収縮期血圧150mmHg以上の方に、血液中のアルドステロン濃度とレニン活性(アルドステロンを調節するもの)を測定するようお勧めします。その比[アルドステロン(単位pg/ml)・レニン(単位ng/ml/h)比:ARR]が200以上であれば、原発性アルドステロン症が疑われます。その場合、追加で種々の血液検査をして、原発性アルドステロン症の診断を行います。片方の副腎が原因なのか両方の副腎が原因なのかを正確に診断するためには、さらにCTやカテーテルを用いた副腎静脈サンプリングが有用です。片方の副腎が原因の場合は、手術によって原因を取り除けば、改善することができます。しかし、手術を希望されない方は、カテーテル検査の必要はありません。また、両方の副腎が原因の場合は、手術の対象となりませんので、お薬の治療になります。
(4)治療のしかた
片方の副腎が原因の場合には、腹腔鏡を用いた手術が有効なのですが、カテーテルを用いた検査が必要になる場合もあります。ご相談の上、手術のご希望があれば、専門的に手術可能な施設をご紹介します。片方の副腎が原因でも手術を希望されない、あるいは両方の副腎が原因の場合はお薬による治療を行います。本態性高血圧症(一番多い高血圧症)でよく用いられるアンギオテンシン受容体ブロッカーやカルシウム拮抗薬ではなく、原発性アルドステロン症ではアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン)を中心として用います。その方が、正常血圧にもどる可能性が高くなります。早く診断して治療を開始し、合併症を予防することが大切です。
(5)この病気と思ったら
内分泌代謝内科、循環器内科、腎臓内科などを受診してください。当院でも、専門に診療しております。
褐色細胞腫・傍神経節腫瘍
(1)病気の解説
アドレナリンという言葉を聞いた事がある方は多いと思いますが、左右両側の腎臓の直上にある副腎の中心部である髄質と部分で作られています。また体中にある交感神経節という場所からノルアドレナリンが作られています。アドレナリンやノルアドレナリンは、カテコラミンといわれるものです。副腎髄質あるいは交感神経節に腫瘍ができて、アドレナリンあるいはノルアドレナリンが過剰に作られる場合があります。副腎髄質にできる腫瘍を褐色細胞腫、交感神経節にできる腫瘍を傍神経節腫瘍と呼びます。多くは良性ですが、約1割の患者に悪性腫瘍、また約1割の患者では遺伝的に発症する方もいます。
(2)症状
ノルアドレナリンが血液中に過剰になると、著しい高血圧になります。時には水銀血圧計の上限(300 mmHg)を超えるほどになる事があります。アドレナリンが過剰になると、著しい高血圧に加え激しい動悸を自覚します。時に、数分〜数時間毎に発作を起こすように血圧が上昇する事があり、この病気に特徴的と言われています。高血圧、動悸以外には、著しい発汗を伴う時もあります。高血糖をきたす事も少なくないため、糖尿病として治療を受けている方もいます。
(3)診断のしかた
血液検査や蓄尿検査でカテコラミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、ノルメタネフリン、メタネフリンなど)の高値を確認し、MRIやCTで腫瘍の存在を検索します。
(4)治療のしかた
カテコラミンを産生する腫瘍を診断したら、手術により摘出します。当院で診断された患者は、手術経験豊富な施設へ紹介いたします。病理検査での良悪性の判断が難しい疾患であるため、手術後も長期にわたって経過観察が必要です。手術するまでは、高血圧や動悸などを確認しながら、α遮断薬やカルシウム拮抗薬で血圧全身管理をします。
副腎偶発腫瘍
(1)病気の解説
両側の腎臓の直上に副腎があります。この副腎の病気以外のお腹や胸の病気を調べるために行った超音波検査、CT、MRI等を行った際に、偶然に見つかった副腎の腫瘍を副腎偶発腫瘍と言います。その頻度として報告されているものは、約200回のCTで1回見つかる程度と言われていますので、少なくありません。そのほとんどは、良性で特に治療をしなくても良いものも多いのですが、中には副腎から副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロンなど)やカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が多く分泌され、高血圧症、糖尿病、高脂血症などの原因となっている事が疑われる場合は、治療が必要になります。極めて稀(人口100万人に1人)ですが、副腎皮質癌が疑われる場合は、積極的に治療を行います。
(2)診断のしかた
ほとんどの方は、他の診療科(消化器科や呼吸器科など)から、偶然に見つかった副腎腫瘍として紹介されてきます。まず、血液や尿検査を用いて、解説に挙げた副腎のホルモンが多くないか調べます。ホルモンを産生するものとしては、コルチゾール産生の腫瘍が多く、中心性肥満や円形顔貌など特徴的所見を示さない例を、サブクリニカルクッシング症候群と言います。また、副腎腫瘍の良悪性についてMRI等を用いて、精密検査を行います。
(3)治療のしかた
ホルモンを産生していない場合は、半年〜1年毎に経過を見る場合が多いのです。しかし、ホルモンを明らかに多く産生し、高血圧・高血糖・高脂血症などの原因になっている場合は、腹腔鏡を用いた低侵襲手術をお勧めします。また、悪性が強く違われる場合は、手術に加えて薬物療法が必要な方もいらっしゃいます。